その眩暈さえ心地いい。

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   ついさっきまで陽香がいたベッドの上が急に生々しく思えて、さりげなくシーツをさっと片手で整えた。 「仁志、あのさ」  缶ビールをのプルタブをプシュ……と開けながら、斉木は恨めしそうに俺を見上げる。 「もし、もしなんだけど」 「何だよ」 「ずっと見てた好きな子に男ができてだな。すごい仲睦まじそうなんだよ。入り込める隙なんて、ないくらい。お前ならどうする?」 「何それ」 「いいから、何も考えないで答えて」  質問をされてる時点で考えるな、というのはものすごく難しい。  けど斉木の矛盾なんていつもこんなもんで、質問からして常識的な答えが欲しいだけだと判りきっている。 「入り込む余地がないなら、諦めて見守るしかないだろ」 「だろ? ……はー、やってらんない……」  頭を抱えつつ手元のビールをちびちびと飲み始めた斉木を見ながら、俺もプルトップを引いて一口あおった。よく、冷えてる。 「……察するに、西川さんの下着盗んでたヤツ?」 「すごいねお前。何なの、エスパーなの」 「何となくだよ。お前、西川さんと付き合ってるし、明らかに諦める方じゃないだろ」 .
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