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実家に置きっぱなしの私物が必要だから持ってこい、と。
ばかみたいに晴れた日、太陽が真上に来た頃、兄貴から電話が入った。
受験対策の夏季講習を緩めに入れていたあたしは、基本的に暇だ。
だから、この炎天下、あたしが兄貴のマンションまで出向くしかなかった。
゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚
「ごめんねー、陽香ちゃん。あたしが行ければよかったんだけど……」
兄貴の顔を見た瞬間、マシンガンのような文句を浴びせてやろうと思ってたのに、ほとんどすっぴんの美園さんが出迎えてくれて、面食らった。
美園さんの背中で、一星くんがグースカといびきをかいている。
この子が癇癪を起こしてものすごい勢いで泣き喚いているのを、あたしは見たことがない。
身内であれば誰に抱かれてもきょとんとしつつ大人しくしてるし、ぐずるときだって美園さんの機嫌や空気を読んでいるんじゃないか、と思うくらい絶妙なタイミングだし。
両親いわく兄貴には反抗期とかなくって、静かで奇妙な子どもだったというから、その血を色濃く受け継いでいるのかも知れない。
「いえ、一星くん連れて電車に乗ったりするの大変だろうし」
「ううん、陽香ちゃん受験生なのに……ほんと、ごめんね。上がって」
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