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「……? こっちは?」
陽香に向けて手をヒラヒラさせると、彼女は「あ」と小さく声を上げた。
そのまま、困ったような顔をする。
「……今、手を放したとき、ちょっと寂しかったから……」
「……同じこと考えてた」
「ほんと?」
「うん」
虫除けスプレーでクールダウンさせたはずなのに、その意味がなくなってしまうくらいドキッとしてしまった。
この娘に対して冷静でいようとするのは、無駄な抵抗らしい。
幸せで、辛い溜め息が漏れた。
「……でも、今日は特別人がすごいと思うから……」
陽香の手をすい、と握り直した。
手を繋ぐこと自体は嫌いではないのか、陽香の頬がぽ、とまたささやかに染まる。
その顔を見ると、少し穏やかな気分になれた。
「離さないようにするから、今日はこうしてよう。ね」
「……ん」
恥ずかしそうに頷くと、陽香はわずかに俺に身体を寄せた。
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