そんなに頑張らないで。

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   でも、斉木みたいに女の人との摩擦をまったく知らないままだったら……なんて考えると、その可能性について思うこと自体まったく意味のないことだと気付かされる。  女の人は、綺麗でかわいいだけの生き物じゃない。  ましてや、欲望がないわけでもないし。  そういうのが判っているからこそ、陽香のよさがよく判る、というか。  もちろん、理屈なんかで始めた恋じゃないけど。  陽香が、いたずらに他の誰かの手にかかる前に出会えてよかったと、本気でそう思う。  俺の中の、ときどき乱暴な衝動はそのまま……というか、案外加速しているのかもしれないけど。  前みたいな、卑屈や謙遜とよく似た場所にいる自信のなさ、というのは影をひそめてしまっている。  かといって自信満々になったわけじゃないんだけど、そう……何というか、自然に振る舞える。陽香といると。  間違って陽香を不愉快の方へ導いたりしないように段取りは慎重に組むけど、流華さんや愛美さんに向けたような打算が顔を覗かせることはない。  それがどれくらい気持ちのいいことか、なんて人には言えないけれど。  俺がその人生の中にどういうものを抱えてきたのか、なんてこと──陽香は知らないけれど。  でも、全部抱えた俺を、陽香が真っすぐに正面から見つめてくれていて。 それで充分で、幸せだと感じながら満たされる。  ……本当に、この感じが、大好きだ。  明るい橙をどこまでも遠くに伸ばし沈んでいく太陽を見ながら、少しだけ感傷的になった。  幸せを感じたとき、少しだけ痛いことをむし返してしまうのは、俺だけだろうか。  本当は、そう懐かしいとも感じていないし、惜しいだなんて思ってもいない過去を、そっと手のひらの上で広げて確かめる。 .
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