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赤ちゃん連れの女の人に手を取られて降りてきたのは、実際の年齢よりちょっと大人びて見える、浴衣姿の陽香だった。
俺が名前を呼ぶと、陽香とその女の人がハッと顔を上げてこっちを見る。
すると、何か察したように前のドアが開いて、運転席と助手席からそれぞれ男の人と女の人も降りてきた。
え。
男の人は陽香のお兄さんというわけでもないし、何事だ、これ。
「……坂田、ヒトシくん?」
赤ちゃん連れの女の人が、好奇心いっぱいの目で俺を見つめてきた。ええと。
陽香が何の問題もなさそうにそこにちょこんと立っているということは、彼女にとって信頼できる人達、ってことで──。
本当なら陽香を上から下までじっくり眺めて、その可愛い姿を目にした感動に浸りたいところだけど。
「どうも。陽香ちゃんの兄嫁の、織部美園といいます。おうわさは、かねがね」
「あ……どうも、こんばんは。坂田仁志と申します」
握手を求めるように手を差し出してきた美園さんに応えると、彼女はふふっと笑った。
美園さんは手を放すと、赤ちゃんを抱きながら陽香を振り返る。
「驚いた。背が高くて、かっこいい」
「ほんまやなー。こら、作家先生心配でしょうがないやろ」
後から降りてきた関西弁の女性は、車にもたれたまま俺をまじまじと見ていた。
男の人の方も、降りただけでこっちに来ようとはせず、上半身を車に預けている。
そして、観察するようにじーっと俺を見ていた。
どうしたものか、と思いつつ頭を下げると、男の人は渋々会釈を返してくれた。
……まさか、兄は2人いる、とか言わないよな?
ようやく陽香に視線を戻すと、もじもじしていた彼女はハッと顔を上げ、カラコロと下駄の音をさせながらこっちに足を向けた。
……その後ろの大人たちが、邪魔だ。
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