188人が本棚に入れています
本棚に追加
そうしてくれたところで、この場を譲ったりはしないけど。
すでに西川さんは酷い怪我をしているのだから、この女を取り押さえるまでだ。
すると、中居はゆっくりと瞬きをして、不思議そうに自分の手の中のカッターを見た。
「これ、そんなに危ない?」
「当たり前じゃないですか」
「大丈夫よ。こんなもので死んだりしないわ……」
そう言って、中居は血の気のない不気味な微笑みを浮かべた。
そうして中居は、この季節に妙だとは思った──長袖をめくり上げる。
「!」
腕の内側を「ほら」と示されて、俺は絶句した。
自傷の痕が、無数にあった。
古いものの上に新しい傷が幾重にも重なっていて、あまりの異様さに眩暈がする。
「子どものときから何度もこうして切ってるけど、私、こうして元気でいるでしょう。だから、大丈夫よ。怖がらなくても」
あんた異常だよ、と思わず口から出そうになって、慌てて自分で塞いだ。
対処の仕方が、判らない。
自然体のまま壊れているこんな女相手に、今下手に言葉を投げかけるわけにはいかなかった。
ゴクリ、ともう一度息を飲む。
.
最初のコメントを投稿しよう!