その階にうつるもの。

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   そうしてくれたところで、この場を譲ったりはしないけど。  すでに西川さんは酷い怪我をしているのだから、この女を取り押さえるまでだ。  すると、中居はゆっくりと瞬きをして、不思議そうに自分の手の中のカッターを見た。 「これ、そんなに危ない?」 「当たり前じゃないですか」 「大丈夫よ。こんなもので死んだりしないわ……」  そう言って、中居は血の気のない不気味な微笑みを浮かべた。  そうして中居は、この季節に妙だとは思った──長袖をめくり上げる。 「!」  腕の内側を「ほら」と示されて、俺は絶句した。  自傷の痕が、無数にあった。  古いものの上に新しい傷が幾重にも重なっていて、あまりの異様さに眩暈がする。 「子どものときから何度もこうして切ってるけど、私、こうして元気でいるでしょう。だから、大丈夫よ。怖がらなくても」  あんた異常だよ、と思わず口から出そうになって、慌てて自分で塞いだ。  対処の仕方が、判らない。  自然体のまま壊れているこんな女相手に、今下手に言葉を投げかけるわけにはいかなかった。  ゴクリ、ともう一度息を飲む。 .
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