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よく今まで、普通を装って生きて来れてたな……。
西川さんの出現をきっかけに、今まで何とか保っていたものが決壊したのだろうか。
それって、なんて不運なことだろう。
西川さんにはもちろん──この女にも。
やりきれない気持ちになる。
ここまで開き直っている人間に、俺みたいな甘い人間の言葉なんて通じない気がした。
「……あなたはそうかも知れないけど、俺と西川さんは違う。カッターを持って向かって来られたら、怖いって感じるんだ。だから」
「俺と、西川さん……?」
ピクリ、と中居の顔が引きつるのが判った。
「私とあんたの、何が違うの? あんたも? あんたもなの? あんたも私がおかしいって、そう言いたいの!?」
中居の目が見開かれて、カッターを振りかざして俺に向かってきた。
宥める為の説得の言葉が、まさか地雷だったなんて──。
俺は咄嗟に西川さんの身体を奥へ突き飛ばし、切りつけてくる中居の手から逃れる。
「……つっ!」
左腕に、刃がかすった。
無我夢中でカッターを腕を振り回す中居。
怪我をする前提でないと止められないことを覚悟して、俺は向き直った。
カッターの刃が、俺の顔面に向かってくる。
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