その階にうつるもの。

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   ──すると。  俺が「あ」と思った瞬間には、それが宙を舞っていた。  辛うじて自由の利く膝から下をばたつかせながら、中居の瞳に妖しい光がともった。  本能的にその狂気の瞳をやばい、と感じた瞬間、中居の足がひときわ大きく振り上げられ、その先からパンプスが離れる。  パンプスは斉木の顔面に向かってくるくると短い弧を描き──。 「斉木!!」  俺が叫んだのと、斉木が眉間に当たった鋭いヒールに怯み中居から手を放してしまったのとは、ほぼ同時だった。  身体中の血が引くって、このことだ。  中居はそのまま両手をついて背筋運動をするように起き上がると、斉木が慌てて伸ばした指先に噛み付いた。  その光景そのものに驚いていると、斉木は「うわっ!」と声を上げて後退する。  中居はそんな斉木の身体に蹴りを入れた。  夢中で暴れているだけだということは判るのに、中居のまとう空気がもう尋常じゃなくて、動作が一瞬遅れた。  俺が足を進めようとしたことに気付いた中居は、残っていたパンプスを素早く脱ぎ、それを俺に向かって投げつける。 「ちょ……っ、やめろ、おとなしくしろよ!」 .
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