その階にうつるもの。

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   咄嗟に腕を上げてパンプスの顔への直撃は避けられた。  けれどそれが左腕だったおかげで、パンプスがもろに傷口に当たってしまった。  激痛に耐えかねて、思わず携帯を取り落とす。  携帯が斉木と中居の方に転がってしまって、やばい──と思った瞬間、パンプスが叩きつけられた。  中居はさっき斉木にぶつけたパンプスを、今度は俺の携帯に向かって投げたのだ。  次から次へと襲い来る、女の狂気じみた猛攻に寒気がした。 「……っのやろう!」  眉間を押さえながら、斉木が中居の足を掴んだ。  引き倒そうとしたのだろうが、中居は信じられないような力でその場に踏ん張り、斉木の頭を両手で何度も叩きつける。 「放せ! この、けだもの! よくも私のめぐみちゃんを……!」 「誰がお前のだ! めぐみちゃんは誰のものでもねえ!」 「汚い手で私に触るな……この、ゲス!!」  休むことなく叩きつけられる中居の手が、滑って斉木の目元をかすった。 「──!」  指先が目に入ったのか、斉木が低く呻いて手を放した。  それをいいことに、中居は青ざめた顔のままフラフラと表通りへ出て行く。 「待て!」  俺が駆け出すと、目を押さえながら斉木が立ち塞がる。  斉木はハアハアと肩で息をしながら、俺の腕を見た。 .
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