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「……仁志、これじゃあの女の相手は無理だよ。俺が行くから、めぐみちゃんを頼む」
「西川さんにはお前がついてた方が……!」
「──俺の! 俺の方が背が高いから、追いつければどうにかできる。おまわりさんへの説明も、仁志がした方が早い。だから、頼むよ……」
目を押さえる斉木の手が、わずかに震えている。
それが恐怖のせいではないのは、斉木の真っ青な顔を見れば判ることだった。
……堪えきれない憤りを感じているとき、全身から血の気が引いてしまうから。
息切れもその怒りの為で、今の斉木は苦痛を感じていないのだろう。
俺さえ殺しかねない形相の斉木を、止める術がなかった。
「……判った……」
ぎりり、と口唇を噛みしめる。
斉木はコクンと頷くと、そのまま中居が逃げていった会社の方へと駆け出した。
どくどくと血が流れる腕を押さえて西川さんを振り返ると、彼女は真っ青な顔をしてポリバケツにしがみつくようにしたまま、気を失っていた。
手のハンカチの染みが、少し広がっている気がする。
携帯に目をやると液晶にひびが入っていて、バックライトはすっかり消えていた。
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