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苛立ちを堪えながら拾い上げて、一応耳に当てた。
もしもし、と言ってみたが返答はない。壊れたらしい。……まだかよ。
やり場のない怒りに舌打ちをして、西川さんを見つめながら息を付いた。
すると、さっきのOLさんが青い顔をして通りから覗き込んでいることに気付いた。
「あ、あの……大丈夫?」」
OLさんは俺の顔を見て、怯えるように肩をすくめた。
俺の顔つきも、相当ひどいことになっているらしい。
カシャン……と携帯をその場に取り落とし、「大丈夫です……」と答えた。
「ぱ、パトカーが来たらおまわりさん案内してあげるから……奥の女の子、看てあげて……」
路地には入りたくないのか、OLさんは怯えながらも必死にそう言った。
すみません、と頭を下げ、西川さんのそばまで戻る。
中腰になって覗き込むと西川さんの肩と胸がわずかに上下していて、ただ気を失っているだけだと判った。
……斉木が気になる。
口唇を噛みしめて、皮を破ってしまいそうになったとき、パトカーのサイレンの音が聞こえた。
弾かれたように顔を上げ、俺はいても立ってもいられずに通りに向かって駆け出す。
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