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厳つい外見とは裏腹に、警官はまるで悪戯をした子どもを宥める親のような口調で俺を気遣った。
さりげなく腕の怪我の観察もされたようで、後ろの警官は救急車の手配をしている。
「そこの7階建てのビルが、怪我をした女の子と犯人の働いている会社で──」
俺がここまで追ってきた経緯を説明しようとしたとき、女の悲鳴が上がった。
「危ない! あの人達、何してるの!?」
悲鳴を上げた女は、俺たちのすぐそばで真上を指し示していた。見上げて、愕然とした。
女が会社ビルの屋上の柵を完全に乗り越え、その腕を男が必死に掴んでいる。
真っ青な空と、真っ白な雲。
また、蝉の声が鳴り止んだ。それだけでなく、通りを歩く人たちの悲鳴も。
スローモーションで、女の身体が柵から離れた。
女のその手は、いつのまにか男の腕を掴み返していて。
女の身体に引っ張られるように、男の身体もフワリと柵を越えた。
……あれ、斉木じゃないか。
思った瞬間、スローだった光景に加速がついた。
二つの人影は、見上げていた俺の視界からあっと言う間にいなくなり、俺の左後ろで重いものが落ちて壊れたときのような音がした。
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