188人が本棚に入れています
本棚に追加
「……え」
自分の身体を見ると、左腕が血まみれだった。
怪我の出血じゃない。俺がカッターで切られたのは肘から先だ。
それなのになんで、Tシャツまで血濡れに……。
純粋に不思議に思って、左側を振り返ろうとした瞬間、がばっと真っ黒いものに視界を覆われる。
息苦しくて暑い、と思った瞬間、耳元でさっきの警官の声が響いた。
「見るな! ……見たら、駄目だ……駄目だ」
震える声の意味が判らず、がっしりとした腕に抱きこまれ、引きずるように移動させられる。
やがて遠くの方から、蝉の声と、劈くような悲鳴と泣き声が戻ってきた。
汗の臭いと、独特の生臭さが立ち込めて──。
視界の端に映った真っ赤な光景に、頭が割れるほどの悲鳴を上げた気がする。
空の青と、雲の白と、正体の判らない赤がぐるぐると廻って。
何を叫んだのか、その後どうしたのか、覚えてない。
.
最初のコメントを投稿しよう!