その階にうつるもの。

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  「……え」  自分の身体を見ると、左腕が血まみれだった。  怪我の出血じゃない。俺がカッターで切られたのは肘から先だ。  それなのになんで、Tシャツまで血濡れに……。  純粋に不思議に思って、左側を振り返ろうとした瞬間、がばっと真っ黒いものに視界を覆われる。  息苦しくて暑い、と思った瞬間、耳元でさっきの警官の声が響いた。 「見るな! ……見たら、駄目だ……駄目だ」  震える声の意味が判らず、がっしりとした腕に抱きこまれ、引きずるように移動させられる。  やがて遠くの方から、蝉の声と、劈くような悲鳴と泣き声が戻ってきた。  汗の臭いと、独特の生臭さが立ち込めて──。  視界の端に映った真っ赤な光景に、頭が割れるほどの悲鳴を上げた気がする。  空の青と、雲の白と、正体の判らない赤がぐるぐると廻って。  何を叫んだのか、その後どうしたのか、覚えてない。 .
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