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真夏の雨はどうしてこんなに容赦がないの。
傘の下で、灰色に煙る景色をぼーっと見ていた。
歩くのを躊躇ってしまいそうな勢いで叩きつけてくる雨のカーテン、その向こう側。
そこで濡れそぼっている桧看板の文字が、この雨で滲んで消えてしまえばいいのに、と思った。
それくらい、信じられなかったから。
斉木くんが亡くなった、なんて。
「……ほら、行くぞ」
長めの髪を後ろに流した喪服姿の額田先生が、あたしの隣に立った。
車を近くの駐車場に停めてきたんだろう。
3日前、急に仁志くんと連絡の取れなくなったあの日──何が起きたかを教えてくれたのは、額田先生だった。
結局仁志くんはマンションには戻ってこなかった。
正確には、戻ってくることができなかった。
すっかり陽が落ちてから、あたしは泣きそうになりながら収に連絡した。
他に、誰に言えばいいのか判らなかったから。収は額田先生の連絡先を知っていた。
額田先生の携帯からも、仁志くんの携帯には繋がらなかったようだ。
けれど額田先生にしてみれば、携帯云々よりも仁志くんがあたしを放置しているという状況に違和感をおぼえたらしかった。
額田先生が元担任の島木先生にうまく話をして、仁志くんのお母さんに連絡してくれた。
仁志くんのご両親も学校の先生だから直接連絡できたらしい。
島木先生はそこで仁志くんのお母さんからようやく聞けたのだ。
“今、病院なんです。仁志の幼なじみで、同級生の斉木くんが亡くなって……うちの子も現場にいたので、病院で手当てを受けつつ警察から事情を訊かれているところで……”と。
あたしが額田先生からそれを聞くことができたのは、もう夜中を過ぎた頃だった。
信じられなくて眠れなくて──朝のニュースで疑いようのない現実を突きつけられ、あたしは泣き崩れた。
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