僕はその淵を視た。

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  ゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。..。.:*・゚  ゆっくりと身体を起こすと、ぐわん……といっしょに痛みもついてきた。  カーテンの隙間から覗く光の存在を認めるや、俺は溜め息をついた。  頭痛は、この3日ほとんど眠れなかったせいだろう。  今週いっぱいはバイトも休みにしてもらっていることだし、ゆっくりできるけど。  もう、遠慮なく玄関ドアを開けて笑顔でずかずか上がりこもうとするやつは。  ときどきオネエ言葉を織り交ぜながら、ふいにどきりとするようなことを言うやつは。  ──どこにも、いないんだ。  窓を全開にすると軒先にまだ雨水が残っていて、ぽたりぽたりとベランダの手すりをわずかに鳴らす。  太陽が昇り始めていたから、そこらじゅうに残っている雨水はすぐに乾いてしまうだろう。  遠くの方で、蝉が太陽の光に反応し、シュワシュワと鳴き出したのが判った。  ふと、その蝉の鳴き声に力がないように思えて──ハッと気付き、TVをつける。 『──おはようございます。8月12日、午前6時55分をお知らせいたします』  ……もう、ほとんど盆じゃないか……。  あの夜見た花火が、ひどく遠い記憶のもののように感じてしまった。  あれから、そう何日も経っていないというのに。 .
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