173人が本棚に入れています
本棚に追加
「……っ」
陽香の手を全部開かせて、少しの隙間でも惜しいというように指を絡めた。
抱きしめるみたいに両手を握って、陽香の望むまま、自分勝手に進める。
陽香はきっと痛いはずなのに、想像したよりずっと暖かく俺を受け入れるから、泣きそうだった。
泣いてたくせに──今だって、泣き喚きたいくせに。
すっかりおんなの顔で、目で、声で俺に応える。
馬鹿じゃないのか。そんなに、俺のこと好きなのか。
自分の身体を全部、俺なんかに投げ出すくらい──。
いつも陽香にする気遣いなど欠片も見せずに勝手にしているのに、それでもその全部を判っている、とでも言うような態度で。
これが、演技なわけがない。
今だってずっと陽香は俺を下から抱きしめながら、泣いているのに。
溺れながら、俺のすることを一瞬ごとに観察してるんだろう?
俺が我に返ってしまわないように、醒めてしまわないように。
──それでも乱れることができるなんて、女って怖い生き物だね。
けど、これ以上暴走なんてできそうになかった。
いつの間にか染み付いた陽香への接し方が、これ以上はまずいとセーブをかける。
参ってるのは、やっぱり俺の方なんだろうか。考えるだけ、無駄だろうか。
.
最初のコメントを投稿しよう!