僕はその淵を視た。

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  「……っ」  陽香の手を全部開かせて、少しの隙間でも惜しいというように指を絡めた。  抱きしめるみたいに両手を握って、陽香の望むまま、自分勝手に進める。  陽香はきっと痛いはずなのに、想像したよりずっと暖かく俺を受け入れるから、泣きそうだった。  泣いてたくせに──今だって、泣き喚きたいくせに。  すっかりおんなの顔で、目で、声で俺に応える。  馬鹿じゃないのか。そんなに、俺のこと好きなのか。  自分の身体を全部、俺なんかに投げ出すくらい──。  いつも陽香にする気遣いなど欠片も見せずに勝手にしているのに、それでもその全部を判っている、とでも言うような態度で。  これが、演技なわけがない。  今だってずっと陽香は俺を下から抱きしめながら、泣いているのに。  溺れながら、俺のすることを一瞬ごとに観察してるんだろう?  俺が我に返ってしまわないように、醒めてしまわないように。  ──それでも乱れることができるなんて、女って怖い生き物だね。  けど、これ以上暴走なんてできそうになかった。  いつの間にか染み付いた陽香への接し方が、これ以上はまずいとセーブをかける。  参ってるのは、やっぱり俺の方なんだろうか。考えるだけ、無駄だろうか。 .
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