僕はその淵を視た。

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  「……ぐしゃぐしゃにしちゃったね」 「うん……」  陽香の頭のてっぺんから、巻き込んで切ってしまわないようにゆっくりと櫛を通す。  何も言わずに、陽香はされるがままになった。  普段から手入れされている髪は、このくらいの乱れは平気だとでも言うように、サラサラと櫛を通してくれた。  まるで、陽香の芯の強さそのまま、って感じだ。  俺に何かされたくらいでどうにかなったりはしない。しなやかで、綺麗なままで。  今、もう一度さっきのように陽香を抱こうとしても、二度とできない。  だけど、陽香に泣きながら首を絞められた瞬間、そうすることになんの疑いもなかった。  いつもの、後ろ暗いような、それでいて快感を煽るような欲情なんかとは、性質(たち)が違った。  俺の中でずっとずっと眠っていた、全ての喜怒哀楽。  更にその奥に潜む、熱くて昏くて、どうしようもない程に爛れ眠っていた、大きな蛇のようにとぐろを巻いて居座っていた──まっくろの自分自身。  触れただけで大火傷をしてしまいそうに煮え滾ったそれを、全部陽香に浴びせて汚してしまいたくて、仕方なかった。  ……それを完璧にしてしまったかどうかは、正直よく判らない。 .
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