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ガシャガシャとフェンスが揺れる。
その度に体重を丸ごと揺すられて、西川さんの手にフェンスが食い込んでいるのが判った。
「危ないから……」
俺は躊躇うことなく小走りで西川さんの方に駆け寄る。
西川さんは俺を振り返ると、来るなとでも言うようにかぶりを振った。
判ってるよ、そんなこと。
言っても西川さんの気を逆撫でするだけだと判っていたから、黙ったままでいた。
何度も必死にフェンスを掴んではいるけど、西川さんはまだ50センチも上れていない。
本当は自分だって、判ってるんだろう。
上りきってフェンスの向こう側に立ちたいという気持ち以上に、自分の手の方がもたないってことくらい。
それでもフェンスを必死に揺らす西川さんの背中が、痛々しい。
どうにもならない自分が一番歯がゆいのだろう。
……斉木。俺、どうしたらいい?
彼女を、手伝ってやればいい?
それとも、嫌がられても助けた方がいい?
答えてくれる相手はどこにもいない。けれど問いかけずにはいられなかった。
西川さんのしたいことや気持ちは、痛い程判るから。
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