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頭じゃ、とっくに判っていた。助けるべきだと。
けど、西川さんだって実際こうして行動に移すまでに、それこそ死ぬ程思い悩んだだろう。
そうして選んだこの状況を、俺が邪魔していいんだろうか。
迷う俺が、どうかしているのだろうか。
すると、月を覆っていた真っ黒い雲がいつのまにか真上にのしかかってきて、中でゴロゴロ、と呻くような唸りを上げた。
ハッと我に返ると、遠くの方から何かが走ってくるような音がして、それを感じているうちに屋上のコンクリートの床にぽたり、ぽたりと雫が落ちてくる。
そのとき、どうしてだか説明がつかないんだけど、目覚めるように思った。
──斉木が、言ってる。
西川さんを止めろって、そう言っている。
俺は空の闇を凝視したまま、次々落ちてくる雨の雫のせいで手を滑らせた西川さんに手を伸ばした。
フェンスから手を滑らせた西川さんは、そのまま背中からコンクリートに叩きつけられる──はず、だった。
でも彼女の身体は、俺の腕の中に収まっていた。
パタパタと、雨が降り注ぐ。
俺は西川さんをまっすぐに立たせると、濡れないように庇の下まで彼女を移動させた。
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