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俺は藁にもすがるような気持ちで、西川さんの肩に手をかけた。
西川さんの身体が震え、涙に濡れた彼女の瞳が俺を見上げる。
「さいき、くん……」
西川さんが掠れた声で、斉木の名前を呼んだことに安堵して。
俺は彼女の口唇を塞ぎ、そのまま抱きすくめる。
その場に崩れ落ちるようにして、抵抗しない西川さんに覆いかぶさった。
何をどうしたかは、あまりよく覚えていない。
雨の音を聴きながら──ただ、熱かった。
熱さの中で、言葉を失った西川さんがどうにか声を発してはくれないかと、それだけを求めて俺は動いた。
嬌声でも、悲鳴でも、このさいどっちでもよくて。
西川さんが拒否しなかった理由は判らないけど、彼女もまた何かに浮かされていた。
俺に揺らされて跳ねる自分の足の先を、西川さんはじっと見つめていた。
たぶん、人が単純に思い描くような甘い感情なんてそこにはなくて。
ただ、どうにもならない悲しい現実を前に、それをひどく憎む気持ちだけが俺と西川さんの前で、夏の陽炎のようにゆらゆらと揺らめいて。
西川さんが堪らず悲鳴を上げて全身をしならせ、俺に「ごめんなさい」と繰り返し、堰を切ったように泣き喚くまで──ただ、それを続けた。
だってこれは、俺にしかできないことだったから。
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