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冷たく接し、突き放して拒絶するべきなのに。
……肌の冷たさとは裏腹に、俺の全部が溶けてしまいそうだ。
「あたしに黙って勝手にどうにかなろうなんて──許さないんだから」
陽香は、大きな目でじっと俺を見据える。
真夏に視た、陽香の中の夜叉がそこにいるような気がして、ぞっとした。
『お前、あまり女をなめるな』
『判ってねえんだよ、お前は』
さっき言われた額田先生の声が、頭の中で鳴り響く。
責めるようなその声に抗えず、俺の中に少しだけ残っていた平常心がミシミシと音を立て、ひしゃげていく。
「仁志くん……仁志くんに負担かけたくなくて、一度も言ったことなかったけど……」
陽香は握りしめた俺の手をそっと持ち上げると、自分の口元まで導く。
「……ねえ、好き。好きだよ。愛してる。本当に、殺してしまいたいくらい」
陽香は動けない俺の指をゆっくりと開かせると、赤い舌と口唇でそれを含んだ。
……壊れることをきみがそんなに望むなら、俺もいっしょにそうなってあげるよ。
ただし、壊れた果てにどうなるかは、俺にも判らない。
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