それを君に強いる僕。

18/21
前へ
/40ページ
次へ
  「陽香」 「やだ、やめて……」  言いながら、声に涙が混じる。  その声に迫力はないけど、俺の心には鈍く重い痛みが広がった。  陽香を泣かせるのなら、別の意味でそうしていたかった。そうする自信が、あったのに。 「ごめん。俺、これ以上陽香に何もできない。してやれない」  あがく陽香の耳元で、精一杯心を込めて、そう言った。  すると彼女はぴたりと動きを止める。  しばらく沈黙があって、陽香の吐息が震え出すのが判った。  覚悟を決めて、その声だけにじっと耳を澄ませる。 「なん……っでえ……なんで、なんで……!」  えっ、えっ、と子どものような嗚咽を漏らし始めた陽香の身体を、俺は苦痛を与えないように、けれども強く抱きしめた。 「ごめん。俺が、悪いんだ。全部俺がいけないんだ」 「いや、だぁ……やだあぁ……っ! なんで、なんで、仁志くん、なんでぇ……っ!!」  可哀相なくらい全身で悲しみを訴える陽香を抱きしめながら、俺たちはその場にへなへなと座り込む。  陽香の手は、俺を抱き返そうとはしなかった。  抱き返したら、俺の言うことを受け入れてしまうことと同じ、と思っているんだろう。  それでも、俺は陽香の気が済むまでこうして抱きしめているつもりだし、なじられ続けるつもりでいた。 .
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加