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昔から、あたしは遠くの知らない通りすがりの人を定期的に眺める癖があって。
今までそうして遠くから観察していて、自分でも知らないうちに忘れていって……っていうことが多くて。
最初は、彼のこともそうだと思ってた。
ずっと見つめ続けながら、ぼんやりとだけど“どんな人で、どんな声で話すんだろう”って思ってた。
1年半、遠くから見てるだけだったのに──ちょっとしたきっかけで見た彼の瞳が、すごく深くまで透き通るような紅茶の色をしていて。
そうして見ているうちにあたしの瞳を通して、あたしの心が彼のことが欲しい、って。
自分が無意識のうちにそんな激しいことを思ってたなんて、びっくりしたけど。
気付いたら一番近くにいられる場所まで来ていて、すごく大切な人になってた。
それが許されることが、すごく嬉しくて、幸せで。
ぎゅっと胸を締めつけるこの熱さの名前が恋だっていうことを、彼が教えてくれたんだと思う。
好きで、好きで、どうしたらいいか判らない。
ただ、優しそうに笑う彼を、一番近くでずっとずっと見ていたい。
彼の顔を見ると恥ずかしくなって、言いたいことなんて言えなくなっちゃうから、ずっと見てたんだよって、いつか自分で言えたらいいな……。
第二章 了
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