旅館

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 死ぬ事も大変だし、決意も大変だった。だけど、その前に、必死に生きる事を模索していなかった。  もがいてもがいて模索して。それで何も無かったなら、生きる道が見えなかったら、その時に死を選んでも良いんじゃないか。  もう少しだけ、生きる事を足掻いてみよう。もがいてみよう。  それでもダメなら、その時、死のう。  「雪を見ると、どうしてもその時を思い出してしまうんです。誰彼構わずでも無いですけれどね。長々と失礼しました」  ……純“和”の旅館に来る事は、私の価値観を変える為に、無意識で自分が欲した生きる事への、模索の一歩だったのかもしれない。  私は今でも時折、この旅館に泊まりに来る。その時の仲居に、私が死ぬつもりだった事は、最初からお見通しだった。と後から聞かされて、顔から火が出たのは、言うまでもない。
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