旅館

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 それとも、日本人として生まれた私は、どれだけ“洋”を真似した現代日本の環境で育ったとしても、日本人のDNAが刻み込まれているから、こういう旅館を選んだのかしら。  ――そんな哲学めいた事も考えてしまうのは、死ぬ事を覚悟したから?  多分。私の遺書を読んだ人によっては、同情を買うのかもしれないし、良くある事の一つだ、と軽く流されてしまうのかもしれない。それは、どちらでも構わない。  私が死んだ後の事なんて。  社内恋愛の不倫の末に、奥さんに知られて会社を退社する事になって、彼から別れを告げられる。  なんて事、昼ドラでさえ、流行らないかもしれない。そんな流行らない事をしっかりやって……  挙げ句、死のうなんて、馬鹿げているのかしら。
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