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いつもなら、こんにちは。くらいの挨拶をする。しかし、小学生達はゲームの話で盛り上がっていたから、邪魔をしちゃ悪いわ。そんな風に悠里は自分を納得させた。
不意に頬に冷たい感触がして、なんだろう? と空を見上げた。白いものがフワリフワリと音もなく落ちてきた。
「雪……今年の初雪、ね。きっと積もらないでしょうけど」
悠里は独り言ちる。手袋の上に乗った白いものは、冷たさを感じる前に消えた。ゆっくりと帰宅の道を辿る。途中で5歳くらいの男の子とスーツ姿の女性を見かけた。多分、親子だろう。
子どもがあれくらいになって、小学生・中学生・高校生になって……その頃自分は何歳だろう? と考える度、焦って仕方なかった。30歳になった時は、無言で結婚はどうするのか? という親戚の視線の圧力が嫌だった。
けれど、今は腫れ物を扱うように視線さえも無い。そちらの方が居たたまれなくなっていた。
だから、きっと孝彦が居なくなってしまって不安が心の隅にこびりついていた。だけど、いきなり帰って来て、混乱をしたのだ。それで悠里は、あんな態度を取ってしまった。今はそう、自分の言動が理解出来た。
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