流れ行く月日と共に

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 だが、何故か萌恵と躰の関係を持った事は無い。10年も続く付き合いなのに。萌恵の存在は、恋人では無いし、友人とも違う。何しろ、気軽に連絡を取り合う事は無いから。  10年前の夏、初めて出会ったその日。それから朝まで語り合った。ただそれだけだが、心が潤った。互いの連絡先を交換したが  「私から連絡をするから、連絡はしないでね」  と萌恵に言われて以来、宏樹は一度たりとも連絡をした事が無い。そのうち、萌恵の存在を忘れかけた1年後に、メールが入った。ただ一言。  「去年会った店で」  いつにするんだ。と返信をしたらいつでも良い、と返信が来て。それ以来、会う日を決めるのは宏樹で、場所は同じで時間も同じとした。  ただし、10年ずっと萌恵から連絡が来ない限り、会う事は無いし連絡もしない関係。こんな不思議な関係を友人と言えるのか、宏樹は疑問だった。  一番不思議なのは、自分自身だろう、と宏樹は思っている。萌恵は外見も中身も魅力的な女性だし、女性と意識は出来るのだが、交際をしようと思った事が無い。1年に1度しか会わないから、ということもあるだろうがそれだけとは言えない。  萌恵に対しては、説明のつけられない感情を抱いていた。
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