流れ行く月日と共に

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 悠里と夕食を共にしたあの日から半月程経ったある日、宏樹のケータイが着信を告げた。悠里からで、今夜実家に来るように、とのお達しだった。  「姉さん? どうしたんだよ、急に」  ただいま、の挨拶を玄関で済ませると両親の顔さえ見ずに、ノックと共にドアを開ける。悠里は自室のベッドに腰掛けてボンヤリとしていた。  「宏樹。私……孝彦と別れたの」  宏樹に視線をチラリと向けながらも、口調はどこか他人事のように淡々としていた。  「……はっ?」  あまりにも淡々とした口調のせいか、笑顔も見せない悠里の様子のおかしさのせいか、宏樹は意味を把握し損ねた。たっぷり1分は掛かっただろう。ようやく、尋ね返した。  「宏樹、耳が悪くなった? 孝彦とね、別れたのよ」  先程よりやや声量を大きくし、ゆっくりと一語一語明瞭に聞こえるように話す悠里。宏樹は、目を丸くして言葉が出て来なかった。  慎重に物事を考える悠里が結婚を決めた相手だから、嫌いでも受け入れようとしていたのだが。  まさか別れるとは、思いも寄らなかった。宏樹は何を言えば良いのか解らない。
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