流れ行く月日と共に

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 帰りの電車に乗り、外の景色を見ながらドア付近で寄りかかっていた宏樹の目に、ホームに佇む孝彦を見付けた。慌ててその駅で降り立つと、佇んでいたのは孝彦では無く、行彦だと解った。  「よぉ。久しぶり」  タバコを指の間に挟んだ右手で挨拶をする行彦に頭を下げる。  「電車に乗らないんですか?」  宏樹は電車待ちでホームに佇んでいたのだ、と思ったが数本の吸殻が新しそうなのを見て、もしかして行彦はずっとここにいたのか? と首を傾げた。  「電車を待つ為にここにいたわけじゃねぇよ」  その言葉で、自分を待っていた事を知る宏樹。そうだとすれば、用件はただ一つ。  「姉と孝彦さんの事、ですか?」  クックッと笑い声を漏らして行彦は頷いた。  「察しが良くて助かるよ。今日、両親から連絡が有った。なんで結婚の挨拶まで済ませたのに、いきなり別れたんだって。俺に言われても知らねぇと答えたが、両親が孝彦に聞いてくれって言ってくるもんでな。孝彦に聞いても考えが違ったとしか言わねぇみてぇだし。悠里さんの連絡先を知らないからな。弟のあんたを待っていれば何か解るかもしれない。と」  行彦の行き当たりばったりな計画に目を見張った。宏樹が必ずしも、今夜現れるとは限らないはずなのに。
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