流れ行く月日と共に

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 涙が乾かなくても、店は開ける。お客様には悠里の心情など関係ないのだから。それでも悠里が失恋をした事は、なんとなく解ってしまうものだ。常連客達は、あれこれ問わずにそっとしておいた。  そんな日々が続いた師走のある日。商店街の会長が現れて、チラシを置いて行った。毎年商店街で企画・運営をしているクリスマスイベントの告知だった。  当然、悠里の店も参加する。そもそも発起人が悠里の父を含めた何人か、なので参加しないという選択肢は無い。だから、イベントのチラシだよ。と会長に言われた時も当たり前のように、チラシを置いて行って欲しいと言って、手が空くまで目を通さなかった。  だが、今年は今までと違う事が有った。  「お父さん。この前イベントの実行委員会を開いたのに、決起集会とかってあるわ。実行委員会でやったはずなのに。何か話を聞いてる?」  改めて行う事は毎年無かったのだが。どういう事だろう? と悠里が首を捻る。  「ああ、つい最近、花屋が出来ただろう? その花屋も誘ったら参加したい、と乗り気らしい。だが、実行委員会に出席出来なかったからな。決起集会という名目で花屋の店主に挨拶をさせるらしい」  父の説明に悠里は、ああ……と頷いた。
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