流れ行く月日と共に

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 孝彦との関係を見詰め直したあの日に出会った店主の顔が思い浮かんだ。オープンした事は知っていたが、未だ寄ってみた事は無い。  「お父さんかお母さんは、花屋さんに行ってみた?」  店に飾る花を買いに行くのは、今は両親だった。店主交代をした時に自然とそうなったのだ。行き着けの花屋というのもなく、彼方此方に買いに行っていた。  「あら。あの店がオープンしてからは、彼処の店ばかりよ? もちろん、お父さんも買いに出かけているわ」  母の説明に、悠里は近所に出来たのだから彼方此方へ行く必要も無いか、と頷く。ただ、父が若干不機嫌そうなのが気になり、店主が嫌な人だったのか? と首を捻った。悠里の印象では、そんな感じがしなかったからだ。  「ああ、お父さんはね、妬いてるのよ。私があの店長さん、ハンサムね。なんて褒めるものだから。良い年をして可愛いわよね」  悠里が母に然り気無く、父の不機嫌そうな顔について尋ねたら、クスクスと笑いながらこっそり理由を教えてくれて、悠里は深く納得をした。  同時に、還暦を過ぎた父が未だに母を思っている事が可愛くもあり、羨ましくもあった。
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