流れ行く月日と共に

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 「そうだなぁ。無料で振る舞えるのは、やはりそれくらいだろう」  父が天井を睨むような表情をするのを悠里は見ていた。幼い頃は何が見えるのか疑問に思って一緒に天井を見上げたが、今は考え事をする時の癖だと理解している。  「いくら期間限定で手作りケーキを販売すると言っても、採算を考えると、その数が限度よね」  悠里がそう言うと、父親も母親も微かに頷いた。イベントはそれで良いとして、ツリーを出して飾らなくてはならないし、店内もクリスマスらしいディスプレイを考える必要があって、悠里はいつまでも気落ちをしている場合じゃなかった。  「店休日にツリーと店内の飾り付けを忘れないようにしなくちゃ」  呟くと、新しく客が来店したのでクリスマスイベントについては、また店を閉めてから考える事にした。  「そういえば、宏樹は手伝いに来られるのかしら。お母さん、何か聞いてる?」  閉店準備をしながら、クリスマスイベントの時期について、大事なことを忘れていた。クリスマスイブとクリスマス当日は、平日なのだ。  普通のサラリーマンである宏樹が、仕事を休んでまで手伝いに来るとは思えなかった。
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