流れ行く月日と共に

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 孝彦と別れた後は当然、連絡を取っていない。連絡も無い。悠里だけが傷ついているわけではないだろう……と今更ながらに理解をした。  「桜が咲くのが、楽しみですね」  孝彦を思いやるゆとりが出来ても、だからといって元の鞘に収まるわけではないのだ。孝彦の事を振り払い、悠里はぎこちなく笑った。その頃になれば、少しはまた変わるだろうと思って……。  「そうですね。……そういえば、いつもありがとうございます」  信悟に急に礼を述べられて、悠里は驚く。  「ああ、ご両親が花を買いにいらしてくれるので……」  「あ、いえ。うちも客商売ですから、花は欠かせませんし、助かっています。今までは、行き着けの店なんてなかったし。近い所に花屋が出来て、有難いです」  信悟の説明に慌てて首を横に振る悠里の方こそ、礼を述べた。  「そうですか」  「はい。そうそう、フラワーアレンジメント教室を開催するとか。母がやってみたそうに話していました」  悠里は今夜話すつもりだった事を打ち明けた。信悟は「ぜひ、どうぞ。と伝えて下さい」と笑った。それを機に、会話を終えて、信悟は風のように走って行った。
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