流れ行く月日と共に

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 三連休初日の土曜日。午後9時より5分前に宏樹はその店に入っていた。年に1度とはいえ、さすがに10年も続くとマスターも覚えているようで、カウンター席をリザーブしてくれている。  最もいつ来るか解らない客の為に常にリザーブをしているわけではないだろうから、萌恵が連絡を入れているのだろうが。9時ジャストに、宏樹は肩を叩かれた。  「萌恵さん」  いつもは、5分程遅れる萌恵がいた。  「マティーニを」  酒が強い萌恵は駆け付け3杯とばかりにオーダーすると、ビールを飲んでいる宏樹の隣に当然のように座って、出て来たマティーニを良い飲みっぷりで飲み干した。  しかし、その指先が少し震えている事を宏樹は見逃さなかった。萌恵は、年上の余裕を宏樹に見せるように、会う度に宏樹を翻弄するが、たまに覗かせる不安そうに揺れる表情などで、本当は余裕が無い事を知っていた。  そんな萌恵を可愛い。  と思ってしまうから、多分、宏樹は萌恵の気紛れを嫌だと思わずにいられるのだろう。  「萌恵さん。今年が約束の年、だね」  恋人では無いから、宏樹は必ず萌恵の事を、さん付けをして呼んでいた。
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