流れ行く月日と共に

73/86
前へ
/625ページ
次へ
 カタン。  萌恵の行動を目の端で捉えていた宏樹は空のグラスを倒してしまった事を知る。  「萌恵さん大丈夫?」  「だ、大丈夫っ。そうねっ。約束の年ねっ」  ……今から思うと、出逢いの時のあの大人びたクールな萌恵さんは、演技だったのではないか? と、こういう萌恵を見る度に宏樹は思う。  そうだとすると、何故演技をしていたのか? という当然の疑問が沸き起こるのだが。尋ねてみたい気がするが尋ねてはいけない気もして、未だに謎のままだ。  しかし、あの約束を突き付けて来たのは萌恵の方で有って、今年はその約束の年なら尋ねても良いだろう。いや、尋ねておくべきだ。宏樹は口を開いた。  「萌恵さん。約束の年だから訊きたい事があるのだけど」  宏樹が切り出すと、萌恵が首を捻って「なぁに?」と顔を宏樹に向けた。  「先ず、出会った時の事。あの時の萌恵さんは、何て言うかその……演技をしていたというか。無理をしていたように見えたんだけど」  宏樹がストレートのど真ん中な質問を投げつける。萌恵は肩をビクリと震わせた。「いつも、大人びたクールな雰囲気を醸し出しているのが、精一杯なのではないか。と思っている」事も同時に告げた。
/625ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加