流れ行く月日と共に

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 両親は悠里がマラソンをするようになった理由を聞かない。それゆえ、悠里も話さなかった。……ただ、ただ無心に走る。そんな月日が過ぎ行き、いつの間にか桜が開花をしていた。  まだ咲き始めのようだが、その下を走る悠里の目にも止まり、足も止まった。風はまだ少し冷たいが、大きく息を吸い込んで春の匂いを感じた。  それからゆっくりと桜並木の下を通り過ぎると、再び走り始めた。蹴る足が軽やかに感じ足が前へ前へと進む。この並木道は緩やかなカーブを描いている。  道沿いに走った先は、別の街に入る入り口にぶつかる為、このコースを走る時はその手前でUターンをするのが、悠里の決めた目標だった。  しかし、今日は桜が咲き始めたのを目にしたせいか、自分で決めた目標を越えてみたくなりその先まで目指してみたくなった。風を切り、蹴る足は力強く前へ前へ……。  やがて別の街が見えて来た。そこを走ると街から少しずれた道になり、今度はこれも緩やかな坂道に続いていた。その先には一体何があるのか、悠里にも解らない。  坂の頂上を目指して走った。  その先は下り坂になって学校が見えた。小学校なのか中学校なのか高校なのか、坂の頂上からは判別が出来なかった。
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