流れ行く月日と共に

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 両親には下がってもらった。もう店仕舞いをする所だったのだ。悠里だけで十分だった。  「チョコレートって、まるで媚薬ですよね」  信悟がポツリと言った、  「えっ?」  首を傾げる悠里。  「いや、今日はバレンタインデーでしょう? 女性は男性にチョコレートを贈る事で、愛の告白を意味するじゃないですか。まるで媚薬でしょう?」  真顔で語る信悟に、悠里は答えようが無い。媚薬とは、情欲を起こさせる薬という事で、悠里としては顔を赤らめる事しか出来なかった。  「あっ!」  何かに気付いたように信悟が声を上げた。  「い、いやっ。そそそういう意味では無くて。恋情を起こさせるという意味でしてっ」  悠里が顔を赤らめた事で、悠里の考えた事が解ったらしくやたらゴホン。と咳払いをして、説明を加えた。  「あ、ああ。そういう意味ですか! つまり、チョコレートが恋愛に欠かせないお菓子というか、食べ物だ、という……」  悠里が最後まで言う前に、信悟の言葉が被さった。  「そうっ。そういう事、ですよ」  あまりに意気込んで言ったので、危うくコーヒーを溢すところだった。
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