旅館

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 「お客様、お食事の支度が出来ました」  はっと我に返ると、座って窓辺に腰を掛けて外を見ながら、時間が過ぎ去っていたらしい。  振り返って卓上を見れば、温かそうな鍋や刺身に山菜や天ぷらが並べられていた。夕食は、7時頃と伝えておいたから、もうそんな時刻なのだ、と知る。  到着したのは4時を回った頃だから、3時間近くも過ぎた、という事。  私がぎこちなく笑みを浮かべて礼を述べると、仲居は窓に目を向けた。闇が広がる外の世界に、白くチラチラしたものが見える。  「あらまぁ、初雪だわ」  今年は長い夏が終わり、短い秋だったらしく、もう雪が降り始めて冬になってしまったようだ。
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