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21
同じ日の朝。
高津は鞍馬からの電話に応じて、喫茶店に居た。
それぞれの目の前には、白い湯気の立つコーヒーカップが置かれ、鞍馬の前にはプラスしてサンドイッチが置かれている。
「奴(ヤッコ)さん、先手を打って、お前を官製談合の疑いで追求しそうだぞ。」
「そうか。」
「『そうか』って……いいのか?」
「それが狙いだからな。真っ直ぐ話に乗ってくれるなら願ったり、適ったりだ。」
「……は?」
「俺が談合していると潰しにかかってきた場合には、『入札に参加するつもりはなく、予算として大まかに見るための参考見積に出しただけ』と言うように建設会社とは話がついてる。」
「……それで逃げられるのか?」
「さあ? ただ『同条件の参考見積で2000億で釣りが来るのに、5000億の計画がおかしくないか?』って切り返して向こうを失脚はさせるつもりだ。」
「……それって、お前やお前に加担してる建設会社にメリットあるように思えないんだが。」
高津はブレンドコーヒーを口にする。
冷房の効いている部屋で、その温度は丁度よく美味しい。
(……別に自分の進退などどうなろうと構わない。阿久津(アノオトコ)を叩き潰せればいい。)
高津の顔色が曇る。
「――建設会社には、新人研修のお付き合いをしてる。研修には充分過ぎる内容だろ?」
「お前が、新人研修?」
「ああ。」
意外な話に鞍馬はくくっと笑うと、こちらもコーヒーに口をつけた。
「三日間で根を上げただろ?」
高津は指を折って日にちを数える。
「いや、今日の時点で一週間は経ったな……。」
「何?!」
鞍馬が大袈裟に驚いて、持っていたコーヒーカップをカシャンと置く。
それから、真顔になって高津をまじまじと見つめた。
「――俺以外に、お前の無茶苦茶な要求に付き合える奴がいたんだな。」
「どういう意味だ、おい……。」
「そのまんまだよ。」
そういうと顔に「興味津々」と書かれているような表情をする。
「会ってみたいな。女?」
「――いや、男だ。」
「そりゃ、楽しみ半減。」
それでも愉快そうに注文したサンドイッチを頬張る。
「今度、会わせろよ?」
「それは構わんが、虐めるなよ? あさ美ちゃんに仕返しされるぞ?」
「何、あさ美ちゃんにも気に入られてるの? そいつ。」
「ああ。とてもお気に召したみたいだ。」
よもやあさ美が本気で内田を持ち帰ると思っていなかったから驚いた。
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