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内田は聞き覚えのある声に立ち止まる。
そして、久保と亜希の姿を見つけると、目を見開いて、口もあんぐりと開けた。
「――久保センと、進藤?」
その声に久保も足を止める。
「内田?」
互いにまじまじと見つめ合う。
「――何してるんだ?」
「いや、そっちこそ。何してるんですか?」
それに対して、亜希とあさ美の声がユニゾンする。
『デートでしょ?』
そして、亜希はあさ美に会釈をした。
「こんにちは。」
内田には勿体ないくらい綺麗な女性だ。
「初めまして。音羽(オトワ) 真奈美です。」
あさ美が挨拶すると、亜希もやや遅れて、「進藤 亜希です」と挨拶する。
(『音羽』って苗字だったのか……。)
内田は一瞬そんな事を思ったが、あさ美に久保と亜希を紹介した。
「こちらは高校三年の時の恩師の久保先生。こっちは同級生の進藤さん。」
「『進藤さん』って、あの?」
「うん、まあ。」
「そう!」
高津の想い人が目の前にいると知ると、あさ美は興味深そうな顔をする。
だが、亜希は人見知りをして、久保の服の裾を引くと陰に隠れた。
「どうした?」
「私の知ってる人?」
久保と内田に不安げに訊ねる。
「……いいや、『初めまして』だよ。」
「初めまして?」
内田の言葉に、亜希はそろそろと様子を伺う。
久保の時に「あなたを知らない」と言ってしまった事が未だに申し訳なくて、六年間の記憶が無いのを自覚してからは人に会うのに慎重になった。
「亜希、そんなに怖がらなくて平気だよ。」
「でも……。」
あさ美はくすりと笑う。
「忘れちゃった時はね、にっこり笑っちゃえば良いのよ。」
それから、亜希の手を取ると「ショッピングに行かない?」と話す。
「――は?」
「だって、智和、煩いんだもん。待ち疲れたってむくれるし。久保さんと積もる話でも話してなよ。」
そう言って、亜希の返事も待たずに連れ去る。
久保と内田は慌てた。
『……ちょっ?!』
「じゃあ、亜希さん、お借りしますね。」
『ええ?!』
久保は手を延ばしたが、借りてきた猫みたいに亜希は大人しくしたまま、あさ美に引っ張られていく。
捨てられた子犬みたいに久保がひどくしょんぼりとした。
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