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「ごめん、久保セン。デートの邪魔して……。」
たが、久保から出た言葉は意外なものだった。
「……ジェットコースターは乗れないな。」
「へ? ジェットコースター?」
思わず聞き返す。
「――せっかく予約したのに。」
「あれ? でも、進藤ってジェットコースター、ダメじゃありませんでした?」
「でも、一人で乗っても楽しく無いだろう?」
しょんぼりとしている久保の様子に内田はぷっと吹き出す。
(こんな大人気ない久保セン初めて見た……。)
「内田? どうした?」
「久保セン、また来た時にすればいいじゃん!」
在学中は何かというと久保が「遊びに行くのは宿題が終わるまで諦めろ。また今度な」と言う事が多かったのを思い出して、内田はお腹を抱えて笑った。
「――内田、笑い過ぎ。」
むくれる久保は「乗った事が無かったから乗りたかったんだ」とぼやく。
「いいっすよ、俺が乗っても。」
「隣が内田か……。」
「俺だって可愛い教え子じゃないですか!」
久保は片眉を上げて、不満そうな顔をした。
「――仕方ない、妥協するか。」
「うわ、酷ッ!」
亜希といる時とは、また違う雰囲気。
内田はくすくすと笑う。
(進藤といる時は、素なんだろうな……。)
昔のように嫉妬めいた気持ちは起きなくて、ただ久保と亜希が幸せであればいいと願う。
「進藤の調子はどう?」
「さっき見ただろ?」
「まあ、顔色は悪くは無かったけど……。記憶は?」
「内田の言うように、突然ひょっこり思い出すみたいだな。」
「久保センの事も、思い出した?」
「いや、まあ、一部だけな。」
「一部だけでも思い出したなら、何よりです。」
しかし、久保は首を横に振った。
「――俺は思い出さなくても良いと思ってる。」
その答えに、内田は真顔になる。
「何で……?」
久保はその問いに答える事はなく、ただ席を立つと、ジェットコースター乗り場を指差した。
「続きは、歩きながらな。」
内田も席を立ち上がると、久保の後を付いていく。
久保は列の最後尾に来ると、予約者専用レーンへと進む。
「――亜希に必要なのは『過去』じゃない。」
どんなに自分が願っても。
それが亜希の負担になるのなら、いっそ捨て去ってしまった方が良い。
――少しずつ前へ。
ゆっくりと進み始めた列に付いて前に進む。
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