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 だんだんと封をしていた記憶の蓋が外れ始めてくる。  久保と回る遊園地は楽しいはずなのに、違和感が付き纏うから、落ち着かない。  ――ブザーが鳴る。  コーヒーカップは二人を乗せて、メロディーに乗ってくるくると回り始める。 「ここを回すんだな。」 「……あんまり早くしないでね、目を回しちゃうから。」 「はいはい。」  久保は加減をしてハンドルを回す。  そのたびに景色がくるくると変わっていく。  亜希は何か思い出せそうな気がして、くるくる回る世界を眺めた。 「――思ったよりこれ楽しいな、景色がくるくる変わって。亜希、どうした? 涙目だぞ。」 「目が、回った……。」 「はい?」 「久保セン、回し過ぎ……。」  乗り物酔いみたいにクラクラする。  やがて音楽が鳴り止み、コーヒーカップが止まる。  亜希は途中から記憶を取り戻すどころじゃなくて、終了のブザーが鳴っても、フラフラとしていた。 『三半規管弱いのな。』  現在と過去がごちゃ混ぜになっていく。 「下りられるか?」 「……うん。」  久保はフラフラしてる亜希を支えて、近くにあったベンチに座らせる。 「何か自販機で飲み物買ってくるから、ここに居て。」 「――うん。」  久保は亜希の髪をくしゃりと触り、ぽんぽんと頭に触れる。  大きな手が心地よくて、亜希ははにかむような笑みを浮かべた。  久保の残したパンフレットには様々なアトラクションの記載がある。 「……あ、メリーゴーランドもあるんだ。」  高校二年までの記憶の亜希にとって、遊園地は小学生時代に家族四人で出かけた以来だ。  あの頃の亜希の父親は大学の勤務医で、朝になく夜になくポケベルで呼び出しを受けると直ぐ様病院に向かってしまう事が多いから、家族一緒に暮らしていても顔を合わせるのは稀だった。  遊園地に来たあの日も、結局途中でポケベルで呼ばれて帰ってしまった。  唯一、一緒に乗れたのは古ぼけたメリーゴーランドだけだ。 (……お父さんとテーマパークに行ったのは、あの一回だけだったな……。)
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