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あの時は半袖を着ていて、妹の理恵は母に、自分は父親に連れられてやってきた。
遊園地がやけに広く感じたのは、きっと子ども目線の記憶だからだろう。
父親に会えたのが一週間ぶりくらいだったから嬉しかったのを覚えている。
(――あの頃の事は覚えているのに。)
ここ六年間だけ泥棒に盗まれたみたいに、ごっそり無くなっている。
それがこんな風に過去を振り返ると身につまされる。
「亜希、お待たせ。」
「――お帰り。」
「だいぶ顔色が戻ったな。」
「目が回るの、止まったから。」
缶ジュースを受け取ると冷たくって気持ち良かった。
「――で、次はどうする?」
「メリーゴーランドに乗りたいけど……、嫌だよね?」
子供向けのアトラクションな気がして、大人が二人で乗るのはなんか違う気がする。
「いいな、メリーゴーランド!」
「……え?」
「遊園地って言ったら、ジェットコースター、観覧車、メリーゴーランドだろ!」
「久保セン、なんか年甲斐ないね……。」
「今日は無礼講なんだ!」
キラキラした目をする久保は急に10歳くらい若返ったみたいで、期待に満ちた目をしている。
「そんなに期待すると、がっかりするかもよ?」
亜希の言葉に久保は目をパチパチさせた。
「そうなのか?」
「だって、白馬とか馬車とかに乗るだけだよ?」
「でも、乗りたいんだろ?」
「――うん、まあ。」
父親との思い出の乗り物。
あの日の父はいつになく穏やかで優しかった。
「じゃあ、一人で乗る?」
久保が意地悪っぽく言うと、亜希は首を振る。
「一人じゃ、恥ずかしくて無理!」
「はいはい。」
久保は笑いながら、亜希の手を引いて再びショッピングモール近くのメリーゴーランドへと向かう。
「久保セン、よく場所を覚えてるね。」
何も見ずにアトラクションの位置を案内されたから、亜希は驚いた。
「さっき地図を熟読したからね。行きたいところは、あとここと、ここと、ここな……。」
「あとはお化け屋敷に行こう!」
「いや……、それはいいや。」
「えーっ。行きたい!」
二人は騒ぎなら、エスカレーターの横まで戻ってくる。
「ひとまず二階でジェットコースター、三階で観覧車の予約をしてこよう。」
「はーい。」
元気のいい返事をすると二階に上がる。
そこで、バッタリと内田に会った。
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