―素直―

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蒼汰視点―――――――――-ー 桜の並木道、桜吹雪のなかで僕は 君と出逢った。 ドンッと誰かと肩がぶつかった。 蒼「…すみません」 本を読みながら歩くのは、やめろ と言われているのだが何分、今の 自分には時間がない。 歩いている時すらも惜しいのだ。 だが、今の不注意で相手の持ち物 が落ちてしまったらしい。背後で バサバサと落ちた音がした。 もう一度、謝ってそれを拾う為に しゃがみ手に取れば、それは自分 の好きな著者の本で少し驚いた。 いい本なのだが、世間にはあまり 受け入れられないらしい。 だから嬉しかったのも事実だ…。 蒼「(珍しい人だな)…どうぞ、」 手渡そうと、顔を上げて初めて本 の持ち主の顔を見たとき、大袈裟 だが時が止まったかと思った。 至近距離で大きな目と目が合う、 艶やかな黒髪が春の風に舞った。 この時、僕は君に恋に落ちたんだ 暖かい桜の薄紅色が似合う、その 女性は本を受け取ると、照れた様 に笑って頭を下げた。 僕はずっと去っていく後ろ姿を 見つめていた。 もう会えないのか、残念がる自分 を隅の方に追いやって、仕事の事 を考えるようにして歩き出した。 だが頭からあの笑顔が離れない。 また気になって振り返ると、その 人と目があった。 蒼「え…」 愛らしい瞳が見開かれ、頬を染め 慌ただしく一礼すると、本を抱え て走り去っていってしまった。
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