―素直―

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心の臓が大きく脈をうって煩い。 これは動悸なのか、わからない… とにかく顔が熱い。胸も苦しいな いつもの自分じゃない事に、混乱 して慌てて踵を返す。 蒼「草壁君にでも診てもらおう」 まだ熱が下がらない額に手を当 てながら足を急がせた―――-… 蒼「…草壁君、ちょっと僕を診て もらえないか」 帰るなり扉を開けて言えば、煙草 を吸っていた同僚の草壁紫苑君 が驚いたように顔を上げた。 無精髭を生やした少し変わった 男だが腕が良い、表現が乏しい僕 とは正反対のよく笑う奴だ。 腹が立つが、一緒に居て気が楽だ 紫「そんなに慌てた君を見たのは 初めてだよ、」 なんて軽快に笑う草壁君をひと 睨みして、自分の席に本を置いた 蒼「真面目に聞いてくれ、」 紫「ははっ…で、どうしたんだ?」 蒼「あの並木道で名前も知らない 女性と肩がぶつかったんだ。それ からというもの動悸が治まらん。 熱もある、あの子の笑顔が頭から 離れないんだ」 何だと思う草壁君、と真剣に問え ば草壁君は目を大きくした。 紫「君、本気で言っているのかい」 蒼「僕がふざけている様に見える のか…心外だな。」 途端に草壁君が、大声で笑い出す 紫「君とは中学から一緒だったが 浮いた話の一つもないあの男色 とまで噂されていた君が、いやー こりゃめでたいなーッ」 人を指差して笑うなんて失礼な。 蒼「…分かるのか分からないのか 生憎、僕には分からない症状だ」 紫「くくッ…それは恋煩いだよ 蓮条君。君にも遂に春がきたな」 蒼「…恋、」
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