―素直―

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生まれて此の方、恋なんてものを したことも興味すらもなかった。 この面に寄ってくる女はいたが、 冷たくあしらえば直ぐ離れてく。 泣き喚き怒り、それに嫉妬深い… 兄を見ていてよく分かる。 だから、どちらかと言えば女性が 苦手な方だった。心配される程… そんな僕が、独りの女性に恋した 仕事なんて手につかず、気づけば あの桜並木に来てしまった。 また会える筈もないのに、馬鹿な 僕はどこか期待して見渡す。 走り回る子供達、散歩する老夫婦 ベンチで寄り添う恋人達。そして ――――――――――見つけた、 桜の木の下のベンチで、本を読む 彼女の姿。それを見て自分の心が 歓喜に騒ぎだすのが分かった。 僕は偶然を装って、彼女に近づく 蒼「すみません、隣…いいですか」 顔を上げたその人は、驚いた顔を したが、僕の手に持っていた本を 見て快く場所を空けてくれた。 心臓が忙しない、貴女に聞こえて はいないか、頬が赤くなっている のを気づかれてはいないか… 冷静を装って、ページをめくるが 内容が全然、頭に入ってこない… 彼女の事が気になってしまう…。
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