―素直―

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ふと、手元に彼女の視線を感じて 顔を上げる。 一瞬、混じりあった視線は直ぐ様 逸らされてしまった。 チクリ。胸を何かで刺された様だ 僕のこの目付きが、いけなかった に違いない。読書用の眼鏡を外し 横に置いて、栞を挟み本を閉じた この時ばかりは、愛想の良い兄の ことが羨ましくなった。 …兄の様な笑顔で話しかけよう。 蒼「…今日はいい天気ですね」 彼女は驚いた様に肩を震わせて、 勢いよく頭を振って見せた。 サラリと肩に流れる艶やかに髪 に思わず見とれてしまう。 だが、彼女はそのまま下を向いて 固まってしまった。 やはり、いきなり過ぎただろうか …見ず知らずの男から、急に声を 掛けられたら誰だって驚く。 人知れず肩を落とした蒼汰は、女 の耳が赤い事には、気づいてない 蒼汰は思った。落ち込んでいる暇 はない。次いつ会えるのかも分か らないんだ。何とか近づきたい… 涼しげな面をして、内心こんな事 を思ってるなど誰が分かろうか、 そうか声が固かったのだ。草壁君 のように柔らかい声音で話せば 蒼「…その著者お好きなんですか 僕も好きなんです。」 するとその娘は、やはり驚いた様 な顔をしたが、柔らかく微笑んで 本の表紙をひと撫でした。 この娘は何て綺麗に笑うんだろ、 蒼汰の心は益々、惹かれていった
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