―素直―

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蒼汰は、余りべらべらと喋る様な 男ではなかった。 だが、今の蒼汰はどうだろうか… 目の前の女性の気を引くために、 身振り手振りで話をする。 こんな姿を同僚が見たら、きっと 腰を抜かすに違いない。 蒼汰の興味がある物は、とことん 追及する性格が功を奏した様だ。 蒼汰の話を彼女は、微笑みながら 静かに相槌を打ったり時々、口許 に手を添えて、楽しそうに笑う。 蒼「すみません、僕ばかり長々と 喋ってしまって聞き上手ですね」 彼女は、笑って緩やかに首を振る 蒼「…こんなに沢山、喋ったのは 久しぶりです。よく理屈っぽいと 言われるので、聞き手役に回って いるのですが」 苦笑いして言うと、必死な顔して 取れるんじゃないか、と思う程に 物凄い勢いで首を振った。 何て素直な人なんだろうと笑う。 蒼「ふふっ…ありがとう、そうだ お名前を伺ってもいいですか…」 赤い唇が動くが、何も聞こえない 突然の風のせいだろうか、いいや ――その言葉には声がなかった。 蒼「…君、もしかして声が」 彼女は悲しそうに顔を歪めると、 うつ向いてしまった。
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