―紅色―

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それとも、と続けた土方の口元が 妖艶に笑って魅せた。 土「…お前、手籠めにされてーか」 胸ぐらを掴んで引き寄せる。顔と 顔の距離は僅か。鼻が触れそうだ 己の容姿の事は、よく解っている 最初から、この手を使っていれば 良かった。だてに恋文は貰って… 土「な"っ…」 目の前の女の顔から、スー…ッと 表情が消えていく。瞳が光を失い 紅の色が深くなった…冷たい色。 何だこの女、今更だが恥ずかしい 何か反応をしろ、俺はこんな軟派 な性格じゃねーんだよ。 椿「局長に会…「わーった!!!」 土「分かったよ。オラついてこい」 舌打ちをして踵を返した土方の 背中に、齢17のまだあどけなさを 残す娘は満面の笑みを浮かべ、頭 を下げたのだった。 土「いいかお前、ここは男所帯だ 簡単に言えば、飢えた狼の集まり お前に何があっても、こっちでは 責任を一切とらん」 それに元気よく返事をした女に、 土「(コイツ…全然、危機感ねー)」 何でこんな事になった。と後ろを 軽い足取りでついてくる女とは 反対に重いため息を吐いた。 外廊下を歩けば、野郎共が好奇の 目で見てくる。 …鼻の下なんぞ伸ばしやがって、 ひと睨みしてやれば、そそくさと 逃げやがった。なのにこの女には 効かねーってのか… 見下ろせば、俺の視線に気づいた のか、こちらを見上げて困った様 に眉を垂らして笑った。 椿「無理を聞いてくださり、本当 に有難うございました…あの」 …今まで強気な態度を見ていた せいか、その表情が何だか… 土「ひ、土方だ…土方歳三」 そっけなく顔をそらして、言った 土方の耳が赤い事と心情に、女は 気づく事はなかった。 …ただ微笑んで深く頭を下げた。
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